ジョブズの思考を再現!Claude Code向けAIスキル

最近の生成AIを使った開発現場では、「誰々のように振る舞って」というプロンプトがすっかり陳腐化してしまった。たとえば「スティーブ・ジョブズのように答えて」と入力すれば、それらしい熱狂的な形容詞——”insanely great” や “revolutionary”——を散りばめたテキストが返ってくる。だが、それはあくまで「語彙のコスプレ」に過ぎない。私たちが本当に直面している壁、たとえば「この混沌としたAI市場で、どのレイヤーで勝負すべきか」というような泥臭い問いに対して、表面的な名言の羅列は何のブレイクスルーももたらしてくれないからだ。

単なる名言集ではなく「認知のOS」を実装する

そんなモヤモヤを抱えていたとき、GitHubの片隅で興味深いアプローチを見つけた。「steve-jobs-skill」という、Claude Code向けに開発されたAIスキルだ。

このプロジェクトの真髄は、ジョブズの残した言葉をデータベース化して検索可能にしたことではない。公式伝記やスタンフォード大学でのスピーチ、各種インタビューなど一次情報を徹底的に解析し、彼の「思考のOS」そのものをリバースエンジニアリングしようとしている点にある。

作者はジョブズの意思決定プロセスを、6つのメンタルモデル(「フォーカスとはNoと言うこと」「エンドツーエンドの支配」「死のフィルター」など)と、8つのヒューリスティック(「ユーザーに欲しいものを聞かない」「見えない部分も完璧にする」など)へと解体した。つまり、これは言語モデルにジョブズの仮面を被せたものではなく、彼が世界を解釈する際に用いていた「認知のレンズ」をプロンプトという形で構造化し、AIに持たせようという試みなのだ。

「方向の競争ではない。センスの競争だ」

その効果は、彼らが公開している検証用の対話ログを見るとよくわかる。

たとえば、「OpenAIとAnthropic、どちらの方向が正しいか?」という現代の我々が抱える問いに対して、このジョブズAIは「問い自体が間違っている。これは方向の競争ではなく、センス(品味)の競争だ」と一刀両断する。

OpenAIは1985年のマイクロソフトのようにすべてをやろうとしているが、それではあらゆるものを「insanely great」にすることはできない。Anthropicは初期のAppleのようにフォーカスしている。だが、両社とも「ハードウェアをコントロールしていない」という致命的なミスを犯している、と断じる。最終的に勝つのは、チップとモデルとユーザーインターフェースを同時にコントロールする者だ、というわけだ。

また、「今、AIハードウェアを作るとしたら?」という問いには、「誰もが1977年のAltair 8800のような、オタクにはウケるが母親には使えないものを作っている。私なら新しいカテゴリーは作らない。既存のカテゴリーを再定義する。答えは『イヤホン』だ。常にオンになっている個人的なAIインターフェース、耳の中に住むAIだ」と返す。

この回答には背筋が伸びる思いがした。過去の語録のコピペではなく、「彼なら今の技術トレンドをどう切り捨て、どう再定義するか」という思考のダイナミズムが見事にシミュレートされているからだ。

矛盾とパラドックスを抱えたAIの可能性

さらに興味深いのは、このスキルが「暴君とメンター」「直感とデータ」といった、ジョブズ自身が抱えていた内在的な矛盾(パラドックス)さえも保持しようとしていることだ。人間は一貫性のある機械ではない。その揺らぎや極端さの中にこそ、常識を破壊するプロダクトを生み出すエネルギーが宿っている。

LLMの進化によって、私たちは「正しいが退屈な一般論」をいくらでも安価に生成できるようになった。だからこそ、最前線でコードを書く開発者やプロダクトマネージャーが真に必要としているのは、優等生なアシスタントではない。予定調和を破壊し、自分たちのビジョンの甘さを「Shit(クソだ)」と切り捨ててくれる、強烈な視座を持った仮想の壁打ち相手なのだ。

「正しい問いは『どんなプロダクトを作るべきか』ではない。『何があなたを夜も眠れなくさせるのか』だ。眠れない夜を見つけに行け」

仮想のジョブズが放ったこの言葉は、ただAIの進化に追われ、使いこなしに汲々としている私たちに対する、最も痛烈で的確なアドバイスかもしれない。

参考リポジトリ: alchaincyf/steve-jobs-skill

Photo by Md Mahdi on Unsplash

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